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 雨の日、お気に入りの傘をさして、商店街までお出掛けしました。
 お散歩? いいえ…、授業に必要な参考書を買いにいったんです。本当に、そのつもりだったんです。

 ただ、どうしても――街中に出てみると、いいえ、雨の日の商店街というのが少し珍しかったからかしら……いつもとは違う表情を見せる景色に、ついつい、足はゆっくりになってしまって…
 水滴を浮かべたショーウインドウ、見慣れているはずなのに、ガラスに映る街の光景はきらきらと…まるではじめてあるく街のよう。
 ガラスの向こう、並べられた商品も…きらめく水滴を纏って、いつも以上に魅力的にみえてしまいました。まるで、そう、魔法にかけられてしまったみたいに…!

 そうして、ふと、おしゃれな雑貨屋さんの前で足を止めてしまったんです。
 そうしたら…私と同じく、雨の魔法にかけられていたんでしょうか? 背の高いお兄さまが、おんなじお店を覗いていました。
 それと、同じく背の高いお姉さま? あと、うさぎのお耳を生やした獣人のかた。こちらは、背の高いお兄さまのお知り合いのようでした。

 雨だれのカーテンに包まれて…、わたしたちは自然と、その雑貨屋さんの軒下で、雨宿りに集まってしまいました。
 最初はひとことふたことのご挨拶、でも口を開くと、次から次におしゃべりが沸きでてきて……。これも、雨の魔法なんでしょうか?

 そんなわたしの気持ちを神さまが見抜かれたのかしら、本当に魔法使いのような、キャンディーのスティックを手にした女の子が、いつのまにかそこに現れて…!
 その場にいるみんなに、ええ、わたしにも…そのキャンディを渡してくださいました。
 そのキャンディの甘いことといったら、美味しいことといったら…。天からの甘露、それを煮詰めて固めたら、きっとこんな味になるんだわ、とおもってしまうほどに。
 キャンディをくれた女の子、クラリサ――…いいえ、クララちゃん。
 この街でまたひとり、お友だちが増えました。そのあと、一緒に雑貨屋さんでショッピングをしたんですよ?
 本当に魔法みたいでしょう。でも、今もまだ量の机の引き出しにとっている、キャンディの棒が、あの出会いが夢でなかったと教えてくれています。

 クララちゃんが魔法のように現れたあと、背の高いお兄さま――…セシルお兄さまが、どなたかへの贈り物を選ばれていらっしゃるとのことで、みんなで頭を悩ませたり…。
 うさぎのお兄さま、ラゼットさんのピンクの傘のお話で盛り上がったり…どなたかからの借り物なんですって。
 わたしの、おばあさまから引き継いだピアスを褒めていただいたり……。
 フローレンスお姉さまは、見た目からおもったよりずっと楽しいかたで、可愛がっていただいたり……。

 ついつい、そんな楽しい時間に背を押されて、でしょうか。流されてしまって、でしょうか…
 素敵なお店の、素敵な店主さまに、わたしはついふらふらと着いて行ってしまって、参考書を買うはずだったお金で、ついつい、手帳なんかを買ってしまいました。

 その手帳に、確かにお店のアドレスは書き留めたはずだったのに――…
 ふしぎなことに、あれからいくら商店街を歩いても、ふたたびとあのお店には辿り着けていないのです。

 本当に、夢だったのかしら? 魔法だったのかしら?
 いいえ、現実であることの証拠は、たしかに引き出しの中に……。

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