PBC[Petit]で活動中のLunaのブログです。
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ペティットには、『つゆ』という季節があるんですって。雨季のことです。
その時期は、ほんとうに雨が多いんです。今日も雨、明日も雨、明後日もきっと雨だわ…なんてことを、驚きもせず普通におもってしまうんです。
でも、つゆ初体験のわたしには、やっぱりすこし驚いたことでした。
雨は嫌いではありません。お気に入りの傘を使えるのは楽しみですし、窓ガラスをつたう雨だれのあとを、指先であみだくじのようになぞってみるのも、楽しくて。
雨宿りをするとき、屋根の上で響く水の音楽会。池から顔をだす、かえるの親子。どの光景も、それぞれに胸を打ちますから。
でも、雨の日が続くなか、ふと晴れの日ができたら…?
それもまた、なんて心が踊ることでしょう。この日ばかりは、引きこもりもおやすみ。
わたしはひさしぶりに、お気に入りの広場へとお散歩にいきました。
やっぱり、おなじことを考えていらしたのかしら? そういうかたがたは、すくなくはないみたいで…。
広場には先客がずらり。
レインお兄さま、リウ先生、それに初めてお見かけする女性がおふたりも。
女性はどちらも小柄で、そのお顔立ち、とっても愛くるしいお鼻から、東のかたかしらと、すこうしだけ思いました。そうしたら、やっぱりそうですって。
朔お姉さまに、マシロちゃん。おふたりとも、とても素敵なかたがたでした。
レインお兄さまと朔お姉さまは、なさっているお仕事が、ちょっと似ていらっしゃるのかしら?
研究のお話をなさっていたようです。ルナにはすこしむずかしくて、ちんぷんかんぷん…でしたけど。
レインお兄さまは医術を専門にやっていらっしゃいますが、朔お姉さまはお薬の調合などをなさっているんですって。
商店街にお店もお持ち…ということで、お薬をお願いしてしまいました。
故郷ではあまり意識したことがなかったのですけど、故郷を出て、雨の多い地域に来ると、なんだか頭がずっしり重くなることがあるんです。
ただの偏頭痛なのですけど、いちど気にしてしまうと、ずっと気になってしまって、お勉強に支障がでることも…。
かといって、お薬に頼りすぎるのも、なんだかいけないような気がしていて、我慢を続けていました。
でも、朔お姉さまのお薬は、お医者さまであるレイン先生も折り紙つきのようですし、東のお薬は体にも優しいとうかがったこともありますし…
これもきっと、ご縁なのだわとおもって、お願いしてみました。
その結果は、こうしてすらすらと日記を書けておりますもの。わたしはすっかり、薬剤師の朔先生のファンになってしまいました。
朔お姉さまと、まるで姉妹のようにならんでいらっしゃったのは、マシロちゃん。黒い髪ではないけれど、お顔立ちは東のかた。
唇も、お鼻も小ぶりで愛らしくて、ぶかぶかのお洋服をはおってらしたのもあって、まるでお人形のようでした。
東のごあいさつを教えてくださいました。ルナにはすこしむずかしくて、何度か教えていただいてやっと、形になったようなものでしたけど…。
次にお会いした時には、もっと上手に出来ているはずですから。どうかお待ちになってくださいね。
マシロさんにそっくりな動くうさぎさんや、ねこちゃんを見せてくださいました。お人形なのに、まるで魔法みたいに動いて…とっても可愛らしかった。
次は、もっとゆっくり抱かせていただけるとうれしいなって思います。
リウ先生は、ご旅行前なのかしら? …と思ってしまうくらい、大きなお荷物とご一緒でした。
なんだかお忙しくされているようで、すこうし元気もなかったみたい…?
いいえ、ふだんから、元気ではつらつ…というよりは、穏やかで、青い月のようなかたでいらっしゃるのですけど…
それでも、お疲れがなんだか見え隠れして、すこし心配に感じてしまうほど。周りのみなさまも気にかけていらっしゃいました。
それでも、お医者さまや薬師のおふたりが強くは引き止めなかったですし、大人の男のかたですから、わたしなどが気にかけすぎてはいけないものだったのかもしれません。
次にお会いできる時に、こんどはおたがいに笑顔でご挨拶ができるよう…。そう、わたしも、自分の体調をきちんとしておかなくては、と思いました。
皆さんとおはなししていたら、あっという間に時間が過ぎて…。
郵政公社に用事があったのに、気がついたら、走ってもぎりぎりの時間。
ちょうど入れ違いでステファニー先生がいらっすって、ご挨拶しかできなくて残念でした。
また、こんどは学院で、きちんとご挨拶ができますように。
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すこし風のつよい日。
でも、この街の春の風は気持ちよくて…。そうだわ、お外で読書をしてみましょう、なんて…
思いついてしまったのが、ことのはじまり。
広場には、わたしとおなじで春風に誘われたんでしょうか? それとも、陽気につられて?
わたしがついたころには、もう、けっこうな賑わいでした。
ごあいさつをしてくださったのは、コールお兄さま。この風では読書はむずかしいぞ、って…。ああ、おっしゃるとおり!
わたしが広場についてすぐ、どこからか、なにかが飛んできました。
それは、商店街のちらしだったり…。女性のお洗濯物だったり…!
なんと、それがいっしょに広場のいらした、とある男性のところに飛んできてしまったものだから、さあ大変。
そのお洗濯物のゆくえを追いかけて現れたお姉さままで巻き込んで、その日の広場は、まるで喜劇の舞台でも開かれているようなものでした。
ほんとうに、みなさん大慌てで…!
わたしも、慣れない海辺の春風の勢いに翻弄されてしまって、自分のお洋服を押さえつけるのでせいいっぱい。
周りにいらした男のかたがたが、気遣ってくださるのが、また申し訳なくて、恥ずかしくって…。
どうしてもっと、うまくおしゃべりできないのかしら。もっと余裕をもって、大丈夫ですって、ささっとドレスをなおせるようなレディであれたらいいのに。
心ばかりがせいて、なかなかどうしてうまくはいかないもの…。
それでもみなさまの優しさのおかげで、さいごは何とか、お話をすることができました。
コールお兄さまからは、ペティットで『さくら』が見れるというお話をお伺いして…。
わたしは、その季節には帰省していたものですから、うっかり見逃してしまったのですけれど、狂い咲きの桜がまだ残っているかもしれない、と。
どこに咲いているのかしら。学院で聞いてみようかしら。そう、今度、後者でパティちゃんを見かけたらきっと…。
でもいつか、きちんと、季節通りに咲いているさくらも見てみたい。きっと、お兄さまのように優しい色合いで咲いていらっしゃるんでしょう。
コールお兄さまといっしょにいらした、銀髪がまるで王子さまのような、自警団のお兄さま。
いいえ、例えるならば、王子さまでなく騎士さまかしら? まるで剣の刃のような、綺麗なおぐしをしていらっしゃいました。
でも…眼差しはとってもやさしい青で。やっぱり、王子さまかしら。 まるで本の中から出てきたようなお姿をされています。
お名前は、アイザック=カルヴァートさま。お名前まで騎士さまか王子さまみたいな素敵なお名前。
お忙しそうに去っていかれました。自警団のお兄さまがたがしっかり守ってくださるから、この街はこんなに過ごしやすいんでしょう。
それとおふたり、わたしが広場に入っていたとき、お兄さまがたといっしょにいらしていた男性。
赤い髪のお兄さまに、もうお一人は金…? 銀…? いいえ、プラチナブロンド、かしら?
赤い髪のお兄さまは、今日いちばん、春風の被害にあわれてしまった…かしら。
腫れたほっぺ、早く良くなりますように。
そういえば、アイザックお兄さまといっしょに急いで行かれたみたい?
自警団のかたでしょうか。やっぱり、お忙しそう。どうかお体はお大事に、お仕事に励んでくださったら…と、おもいます。
プラチナブロンドのかたは、どちらかでお見かけしたことがあったかしら…?
わたしが焦っていると、椅子をすすめてくださいました。おやさしいかた。
物腰がなんとなく優雅なかたで、ちょっと、わたしはきんちょう…。でも、つぎにおあいできたなら、つぎはきっと、きちんと目を合わせてごあいさつをいたしませんと。
おふたりとも、お名前をうかがいそこねてしまいました。自己紹介もできなくって、ルナのばか。
そのあともうお一人、赤毛のお兄さまがいらっしゃいました。
不思議な言葉を使われていたかしら…わたしが不勉強なのもありますけれど。なんだか、はつらつとした抑揚でお話になる、エルフのお兄さま。
アニキ? とおっしゃる、ホムンクルスの研究をなさっておいでとか。うーん、魔法とはまたちがう学問のようです。エルフのかたのお話は、むずかしい…。
最後に残るのは、顔をあげたやつ。はい、ルナはしっかり覚えましたよ! しゃんとして、お日さまをしっかり見て、前を向きます。
そうして、わたしとほぼ同時に広場に入ってきたのは、シスター服のようなお召し物のお姉さま。
アナスタシア…アーニャお姉さま。
この風にお洗濯物を飛ばされてしまったのですって。そのお洗濯物が、そのう、下着だったものですから……たいへん!
うん、ルナもお気持ちはとってもわかります。見知らぬ男性にそれを見られてしまうことが、どれほど恥ずかしいか…
頭が真っ白になってしまいます。お姉さまも、やはり大変そうでした。
お姉さまは、こちらの街にはもう、1年いらっしゃるのですって。わたしよりちょっぴり先輩のお姉さま。
神のご加護がありますように…。ええ、お姉さまのもとにも。
穏やかな風が、吹いてくださいますように。
そうやって、こんな面々でちょっと騒いでおりましたら、きっと目立ってしまっていたんでしょう、遠くから聴き慣れた声が…
パティちゃん。わたしのだいすきなお友達、パティちゃん。
帰省していた間、何度お顔を思い出したものかしら。こちらに戻って、春休みのお話を、おたがいにできればなんて考えていました。
パティちゃんが輪に入ってくれただけで、とたんに元気になってしまうわたし。なんて現金なんでしょう。
でも、いいえ、パティちゃんにそういう力があるんです。それはきっと、彼女に会ったことがある人なら、みなさん同意してくださるはず。
この日もすっかりめげかけていたルナをはげましてくださって、元気な彼女は風のように去っていって…。
いつものようにわたしが追いかけて、……そう、いつものいちにち。
ペティットでのいつもの日常。わたしにとって、かけがえのない日々、そのひとつでした。この日も……。
先日、ネージュお姉さまからいただいた、花のミサンガ。
わたしの魔力では、水を持たせるのは一週間が限度のようでした。少しずつしおれていく花を、ながめているだけなのは胸が痛くて…
そうだ、だったら、絵にして残しておこうかしら、と、思い立ちました。
でも、描き起こそうとおもって、改めてよく見てみると……そういえば、このももいろの花は、なんという名前かしら…
たんぽぽも、故郷で見るのとは、色合いや花弁の形がちがうようなきがします。
せっかくだったら間違いのないよう、きちんと調べて記録しないと! とおもって、学院の図書館で植物辞典をお借りして、これかしらあれかしら…と調べていました。
めくって、しらべて、描いてみて…ううん、ちがうな。
しらべて、めくりなおして、描き直して…やっぱりちょっと…?
そんなわたしは、きっと、勉強の合間にらくがきをしている学生さんのように見えてしまったでしょう!
…いいえ、じつのところ、課題が終わってはいませんでしたから、それは正解でした。
そんなうしろめたさが心の片隅にあったものだから…、それに、まさかミサンガをくれたお姉さまご本人に見つかるだなんて思っていなくて!
背後から声をかけられて、わたしはついつい、図書館ではお静かに…のこの場所で、椅子の音を大きく立ててしまいました。
こうなると、驚いたのはわたしよりも、今度はお姉さまのほう。
図書館の片隅で、謝罪合戦…。いま考えると、なんだかすこし、おかしいですね。
ちょっとおもしろく感じてしまったわたしは、フォローのつもりで、このあいだお伺いしたイトスギの森での事件…、お姉さまがユベルティお兄さまに脅かされたこと、を、引き合いに出してしまいました。
そうしたら、また、お姉さまがめまいを覚えるほどにショックをうけられて……!
ごめんなさい、ごめんなさい――。でも、ルナは、ネージュお姉さまに驚かされたこと(と、いっても、わたしが勝手に驚いてしまったのですけれど)、嫌な気持ちはしませんでした。むしろ、構ってもらえてうれしかった、ような…。
お姉さまも、ユベルティお兄さまのことはお許しになっているとのことだったし、きっと、そんなふうにおんなじ。お気になさらないで!
――…いえ、でも、やっぱりお話を思い返すと、お兄さまのほうは…すこうし、ね?
わたしだったら、泣いておりました。
周りには、ゾンビらしいゾンビさんもたくさん…ということでしたし。やっぱりちょこっとだけゆるしがたいことのようです。
それから、おしゃべりをしている間に…、わたしもおねえさまも少しずつ落ち着いてきて…
お姉さまが、魔法の初級の本を探していらっしゃるということでしたから、お手伝いさせていただくことにしました。
とはいえ、わたしもまだ図書館では迷うことも多くて、一緒に手探りで本棚を覗いて…。
お姉さまが選ばれたのは、確か、光の魔法の本だったでしょうか。
それと――氷だったでしょうか。雪だったでしょうか。
ご本を読まれる際は、お邪魔になってはいけないとおもって、…それにわたしは課題も終わっていませんでしたし、席を離れたのですけど…
あの本とのめぐりあわせは、お姉さまにとって、良いものだったでしょうか?
そうであったことを願います。
しばらく、春休みを故郷で家族と過ごしてから、ペティットの街に戻ってまいりました。
故郷から船をいくつかのりついで、最後の陸路は、その港からペティットへ向かう商隊の一団さんたちと、ご一緒させていただくことになりました。
そういうひとは、わたし以外にもわりといるもので…旅路をともにするひとたちが、馬や馬車を連ねて、春の風を切っての道をいく――…なかなかに賑やかで、とてもすてきな思い出になりました。
北の国から来たというおばさんから、娘さんのおさがりの民族衣装のワンピースをいただいたり…、砂漠のむこうからいらしたのだという商隊のおじさまから、らくだのチーズの食べ方を教えていただいて、草原の彼方からいらしたというご夫婦から、めずらしい楽器を聞かせて頂き、みんなで輪になって火の神さまのダンスを踊って……
そう、気が付いたら、もうすっかりペティットの近くまでたどり着いていたのだと――
あの、やわらかな紅茶色の髪、妖精が棲む湖のような青い青い瞳…春色のワンピース、そんなネージュお姉さまの姿を見つけるまで、わたしはすっかり失念しておりました。
お姉さまは、相場のソレユちゃんと一緒に、遠乗りにいらしていたのですって。
春の光景を、いくつも見つけたのですって…
すべてが真珠色の森
太陽が登るときと沈むときに色を変える草原
ペティットの街には、そのそばに、いくつも春を楽しめる景色があるのだと教えていただきました。
でも、わたしのいっとうお気に入りのお話は、蟻さんのお話。
わたしはちっとも気付かなかった…ふと、あしもとに気を留めるだけでも、春を見つけられるのだというお話。
ちいさなこと、手を伸ばさなくてもとどくささやかなこと…でも、いつも自分のそばにあって、自分をつつんでくれる、たいせつなもの…
そういうものを、きちんと目にとめて、忘れずに慈しめるネージュお姉さまのことを、ルナはなんだか誇りにおもうのです。
わたしとお姉さまは、この街で出会っただけの…、そう、まだそんなにお会いしたことも数少ない、もちろん血のつながりだってない、べつべつの存在ですけれど…
それでも、わたしにとってお姉さまは、ペティットといえば、という代名詞になるくらいに、憧れでたいせつなかたです。
野原での休憩時間は、そんなに長くも居座れず…――みなさま、目的地がもう目と鼻の先でしたから、気もはやっていたのでしょう。
わたしも、きっとそうでした。
早く街についてしまいたい気持ちと、せっかくお会いできたお姉さまとの別れがたい気持ち……
もしかして、見透かされてしまったでしょうか?
寂しがるわたしを、思いやってか…、それとも、偶然の再開を記してか…お姉さまがくれたのは、春の花のミサンガ。
きいろいたんぽぽ、はじめてじっくりと見る、ももいろの花…
ソレユちゃんの傍で、さやさやと咲いていた花を、お姉さまの白い指が器用に編んで…。
それを腕に通した瞬間、わたしの胸いっぱいに、あたたかな感情がこみ上げてきました。
『ありがとう』、『ただいま』、『また、よろしく――』
お姉さま、ソレユちゃん、そうして―――ペティット!
雨の日、お気に入りの傘をさして、商店街までお出掛けしました。
お散歩? いいえ…、授業に必要な参考書を買いにいったんです。本当に、そのつもりだったんです。
ただ、どうしても――街中に出てみると、いいえ、雨の日の商店街というのが少し珍しかったからかしら……いつもとは違う表情を見せる景色に、ついつい、足はゆっくりになってしまって…
水滴を浮かべたショーウインドウ、見慣れているはずなのに、ガラスに映る街の光景はきらきらと…まるではじめてあるく街のよう。
ガラスの向こう、並べられた商品も…きらめく水滴を纏って、いつも以上に魅力的にみえてしまいました。まるで、そう、魔法にかけられてしまったみたいに…!
そうして、ふと、おしゃれな雑貨屋さんの前で足を止めてしまったんです。
そうしたら…私と同じく、雨の魔法にかけられていたんでしょうか? 背の高いお兄さまが、おんなじお店を覗いていました。
それと、同じく背の高いお姉さま? あと、うさぎのお耳を生やした獣人のかた。こちらは、背の高いお兄さまのお知り合いのようでした。
雨だれのカーテンに包まれて…、わたしたちは自然と、その雑貨屋さんの軒下で、雨宿りに集まってしまいました。
最初はひとことふたことのご挨拶、でも口を開くと、次から次におしゃべりが沸きでてきて……。これも、雨の魔法なんでしょうか?
そんなわたしの気持ちを神さまが見抜かれたのかしら、本当に魔法使いのような、キャンディーのスティックを手にした女の子が、いつのまにかそこに現れて…!
その場にいるみんなに、ええ、わたしにも…そのキャンディを渡してくださいました。
そのキャンディの甘いことといったら、美味しいことといったら…。天からの甘露、それを煮詰めて固めたら、きっとこんな味になるんだわ、とおもってしまうほどに。
キャンディをくれた女の子、クラリサ――…いいえ、クララちゃん。
この街でまたひとり、お友だちが増えました。そのあと、一緒に雑貨屋さんでショッピングをしたんですよ?
本当に魔法みたいでしょう。でも、今もまだ量の机の引き出しにとっている、キャンディの棒が、あの出会いが夢でなかったと教えてくれています。
クララちゃんが魔法のように現れたあと、背の高いお兄さま――…セシルお兄さまが、どなたかへの贈り物を選ばれていらっしゃるとのことで、みんなで頭を悩ませたり…。
うさぎのお兄さま、ラゼットさんのピンクの傘のお話で盛り上がったり…どなたかからの借り物なんですって。
わたしの、おばあさまから引き継いだピアスを褒めていただいたり……。
フローレンスお姉さまは、見た目からおもったよりずっと楽しいかたで、可愛がっていただいたり……。
ついつい、そんな楽しい時間に背を押されて、でしょうか。流されてしまって、でしょうか…
素敵なお店の、素敵な店主さまに、わたしはついふらふらと着いて行ってしまって、参考書を買うはずだったお金で、ついつい、手帳なんかを買ってしまいました。
その手帳に、確かにお店のアドレスは書き留めたはずだったのに――…
ふしぎなことに、あれからいくら商店街を歩いても、ふたたびとあのお店には辿り着けていないのです。
本当に、夢だったのかしら? 魔法だったのかしら?
いいえ、現実であることの証拠は、たしかに引き出しの中に……。